海外の中古建物の減価償却費計算を利用した富裕層の節税スキーム

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日本の居住者が海外に所有する不動産を賃貸した場合、不動産の所在地国だけでなく日本でも不動産所得の確定申告をしなければなりません。二重課税が発生することもあり煩わしい手続きの筈ですが、積極的に節税策として活用される方が少なくない様です。これが平成27年度の会計検査院検査で、 ”国外に在る中古建物に係る減価償却制度の不備に起因して、税負担の不公平が生じているのではないか”と問題視されており、税務当局としても何等かの対策を講じる可能性が出て来ました。

節税策の仕組みは至って簡単です。先ず不動産仲介会社を通じ、米国や豪州に在る築22年以上経過した木造の高級賃貸物件を購入します。この賃貸から生じた不動産所得を、海外及び日本で確定申告します。やることはこれだけです。

何故節税になるかと言えば2つの理由があります。
①日本では木造建築の平均使用期間が30年程度と短いため、築20年超の建物には殆んど値が付かない。これに対し米国や豪州では平均的に倍以上の期間使用されるため、売買価額の5~6割を建物部分が占める物件が多い。
②国毎に減価償却制度の相違が大きく、例えば米国の場合は鉄筋か木造か、新築か中古かの区分に拘らず一律27.5年の耐用年数が適用される。これに対し日本では、新築木造住宅用家屋の償却年数は22年、法定耐用年数を過ぎた中古物件であれば簡便法で4年が適用される。

例えばハワイで、築25年の木造戸建て別荘を1億円で買ったとしましょう。建物と土地の取得費構成は、固定資産税評価額で按分して6対4になったとします。この場合、日本での確定申告に於ける減価償却費は15百万円になります。これに対し賃貸料収入は精々5~6百万円程度ですので、必然的に不動産所得の赤字が発生します。多額の事業所得や給与所得があり、33%~45%の限界税率が適用されている方であれば、所得税と住民税を合せて赤字金額の半分近い税還付が受けられます。
但し減価償却費を早期に計上しても本質的には課税の繰り延べ効果しか有りませんので、この後適当な時期に当該物件を譲渡するとか、賃貸開始後4年を過ぎれば総所得金額を減らして限界税率を下げると言ったフォローが必要になります。
(ご参照)海外賃貸不動産の確定申告に付いては、幣HPの別稿記事「海外勤務で自宅を賃貸された方から不動産所得の確定申告に関するご相談」をご参照下さい。

改正内容や実施時期の検討が今後進むにしても、成案を得るには相当の時間を要するため、直ぐに規制と言うことにはならないと思います。この問題の本質は、減価償却制度の不備と言うよりも日本と欧米諸国とで中古住宅の維持管理や価値観についての大きな乖離があることに起因しています。日本で築30年の木造建築と言えばゼロ価値ですが、欧米では新築同等若しくはそれ以上の評価が付くことも珍しくありません。日常の維持管理が違うからです。各国の中古住宅に関する減価償却制度は、各々の実態に即して定められています。日本の制度が是であるとして、この間の事情を無視し画一的に規制するのは容易では有りません。

(追記) 平成30年度税制改正では、海外不動産を利用した節税策封じが見送られました。日本経済新聞(平成30年1月15日付朝刊)には、”減価償却制度を海外不動産の耐用年数を踏まえたものに変更するには、先ず海外不動産の実態把握が必要だ。それなりの時間が掛かるが、会計検査院の指摘は重く受け止めている” との財務省税制第三課の見解が掲載されています。平成31年度改正でも引続き見送られましたが、今後の動向を注視する必要があります。

 
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