遺産分割協議では先ず預貯金を貰うのが得策、不動産は処分リスクや所得税負担を考えると不利になる場合があります

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遺産分割協議に於いて分割対象となる相続財産の価額は、相続税評価額ではなく遺産分割時点での時価で評価します。分割取得財産が多い少ないで相続人間で揉め、家庭裁判所の調停に持ち込まれることも少なくありません。取得財産の時価ベースでの按分が法定相続話割合に収まれば皆さん納得される様ですが、果たしてこれが等価の分割になっているでしょうか。不動産や有価証券などの含み損益が生じる資産は、現金化の為に諸経費や譲渡所得税等の支払いが必要です。分割財産の時価による評価が同じであっても、これ等の負担後のネット手取り金額は全く異なります。そこで遺産分割協議では先ず預貯金を貰うことをお薦めします。
何故そうなるのかを理解するため、単純化した設例で検証して見ましょう。

1.相続税の負担比較
相続人は兄弟2人で、相続財産は時価1億円の居住用不動産(宅地評価のみで古家はゼロ価値)と1億円の預貯金とします。自宅敷地は被相続人が1970年に取得したものです。自宅不動産は長男Aが取得し、預貯金は次男Bが取得することで分割協議が纏まりました。
①居住用小規模宅地等の特例の適用が受けられる場合
イ.相続税の課税価格
  宅地 :路線価評価額 80,000,000X小規模宅地等の特例(1-0.8)=16,000,000円 
  預貯金:100,000,000円
ロ.相続税の総額
  {(課税価格合計116,000,000ー基礎控除額42,000,000)X1/2X0.2-2,000,000}X2=10,800,000円
ハ.各相続人の税額
  長男A:10,800,000X16,000,000÷116,000,000=1,489,600円
  次男B:10,800,000X100,000,000÷116,000,000=9,310,300円
①居住用小規模宅地等の特例の適用が受けられない場合
イ.相続税の課税価格
  宅地 :路線価評価額 80,000,000円 
  預貯金:100,000,000円
ロ.相続税の総額
  {(課税価格合計180,000,000ー基礎控除額42,000,000)X1/2X0.3-7,000,000}X2=27,400,000円
ハ.各相続人の税額
  長男A:27,400,000X80,000,000÷180,000,000=12,177,700円
  次男B:27,400,000X100,000,000÷180,000,000=15,222,200円
③負担差異
 小規模宅地等の特例の適用が受けられる場合は、長男Aの相続税負担が圧倒的に少なくなります。受けられない場合でも、これ程の差異はないにせよ長男Aが有利です。これだけで判断すると宅地を相続した方が得策に思えますが、実はそうではありません

2.相続財産の現金化に要する諸経費と譲渡所得税等の負担比較
①長男Aに掛る現金化に要する諸経費と所得税及び住民税
イ.不動産取得税
  被相続人からAへの所有権移転登記が必要ですが、相続を原因とする登記に就いては不動産取得税が非課税になります。
ロ.不動産売却の仲介手数料
  宅建業法に定められた限度額は税込み3,366,000円になります。
ハ.不動産譲渡所得に係る所得税及び住民税額
  日本不動産研究所が公表する市街地価格指数に依れば、1970年3月から2020年3月までの東京区部の地価変動は25.7⇒112.4です。これを基に宅地の取得費を推計すると22,864,000円になります。
 ⅰ)小規模宅地等特例の適用が受けられる場合
    譲渡所得金額:売却収入100,000,000-取得費22,864,000-譲渡経費3,366,000-取得費加算の特例205,000=73,565,000円
    所得税及び住民税:73,565,000X20.315%=14,944,700円
 ⅱ)小規模宅地等特例の適用が受けられない場合
    譲渡所得金額:売却収入100,000,000-取得費22,864,000-譲渡経費3,366,000-取得費加算の特例5,412,000=68,358,000円
    所得税及び住民税:68,358,000X20.315%=13,886,900円
②次男Bに掛る現金化に要する諸経費と所得税及び住民税
  該当なし
③負担差異
  小規模宅地等の特例の適用が受けられる場合は、長男Aの諸費用と所得税等の負担が18,310,700円増えます。受けられない場合は17,252,900円増えます。
  1の相続税負担と合計すると、小規模宅地等の特例の適用が受けられる場合は10,490,000円、受けられない場合は14,208,400円、夫々トータルの諸費用と税負担後で長男Aが不利になることが分ります。
  親と同居されていた相続人は特に自宅の相続に固執される傾向があります。相続財産に占める自宅不動産の比重が多い場合は他の相続人への代償分割支払いも厭いません。こうした方は一旦感情論を離れて、税効果を反映した換金後での得失を良く検証されることをお薦めします。
  今回は不動産を事例に取り上げましたが、上場有価証券に就いても同様のことが言えます。上場有価証券がある場合は、証券会社からの取引報告書等でどの程度の含み損益があるのかをチエックすることが必用です。

3.結論
  試算結果は相続財産の種類や金額、取得時期などに応じて多少異なるでしょうが、太宗はこの様になると思います。紛議になり易い分割協議では、取得財産の多寡や相続税額で尖った自己主張するのではなく、一気通貫で考えた方策により実を勝取ることが賢明です。

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