慰留分の侵害請求を起こされ相続した実家を売却すると他の相続人の税負担まで背負い込むことになりかねません

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財産の過半が自宅の不動産である被相続人が、遺言で同居する長男にこれを遺贈し、他の兄弟には遺留分未満の現預金その他の財産を遺贈するケースは珍しいことではありません。他の兄弟がこれで納得すれば良いのですが、不満に思い遺留分の侵害請求を起こされると面倒なことになります。内容証明書1通で済む話なので、長男としては抗う術がありません。具合が悪いことに、平成30年の民法改正で遺留分侵害請求権の金銭債権化が行われました。この辺りの事情は皆さん良くご存知で、非課税扱いの生命保険金で長男に支払い原資を遺すと言った対策も採られている様ですが、足りなければ相続した実家を売却するほかありません。

慰留分侵害請求は、相続の開始及び侵害の事実を知った日から1年以内(または相続開始後10年以内)に行使しなければ失効するため、通常相続から1年以内に提起されます。金銭化された遺留分は期限のない債務なので、履行遅延の場合は請求の翌日から遅延損害金と利息が発生します。被請求者に充分な資力がない場合は相当の期間支払いが猶予されますが、これには裁判所の許可が必要です。この場合には遅延損害金が免除されます。
慰留分侵害請求権の基となる相続財産の評価額は、相続税評価額ではなく相続時点での時価(実勢価額)です。ところが実家不動産を売却して手取り資金を侵害請求権支払いに充てるためには、売却諸費用と譲渡所得税の負担が不可欠です。全て長男の負担になります。改正以前は遺留分減殺請求が有った場合、不動産の共有持分を渡すことが可能でした。ところが改正後はこれが出来ません。正確に言えば法律的には可能ですが、代物弁済として長男に譲渡所得税が課せられることになります。誠に可笑しな話で、金銭債権化による一種の副作用と言っても過言ではないでしょう。

相続した実家不動産を売却する際の別問題として、譲渡所得金額の計算に必要な取得費が分からないケースの多いことが挙げられます。建物に付いては国税庁が公表する建物標準建築価額表で何とかなりますが、宅地に付いてはそうは行きません。分からなければ概算取得費控除での計算を求められますが、売却価額の5%が取得費と言うのでは到底納得できないでしょう。ネット記事を鵜呑みにして数十年前の全国市街地価額指数を拠り所に申告される猛者も居られますが、合理的根拠に欠けるとして否認されると覆すのは容易ではありません。私共の事務所でも数多くの相談や税務代理申告の依頼を受けますが、如何ともし難いケースがあります。例えば ①昭和27年12月31日以前から保有していた土地建物に付いては5%取得費が強制される ②昭和30年代前半に取得した宅地に付いては推計取得費を計算しても概算取得費と大差ない ③東京都心臨海部や埼玉副都心、神奈川県武蔵小杉駅近辺など再開発で地価が急上昇したエリアについては合理的推計が難しい、等に該当する場合は理由を明確にした上でお断りしています。推計取得費を計算するには、国交省不動産取引価額情報・路線価・公示価額・固定資産税評価額・市街地価格指数などの収集と分析が必要です。特に昔の路線価図については所轄税務署に保存されていないため、国立国会図書館に赴きマイクロフィルムを閲覧するしか有りません。殆ど一日仕事になります。税理士報酬は要した作業量と難易度並びに職業賠償責任リスクに見合った金額になりますので、高額になることも有り得ます。費用負担と相続税・所得税の軽減メリットとの兼ね合いで、依頼の是非をお決めになることをお薦めします。

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