相続財産が未分割の場合の配偶者の相続税額軽減や小規模宅地等の特例に付いてのご相談

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主人が亡くなってから3年8カ月が過ぎました。相続財産は戸建て2棟及び賃貸マンション1棟の共有持分・生命保険金・死亡退職金・金融資産等を併せて時価2億円程度です。法定相続人は私と娘2人ですが、種々事情が有りこれまで遺産分割をしておらず、相続税の申告も行っていません。申告書を出すにしても義母の顧問税理士の話では、被相続人が死亡してから3年10カ月を経過すると未分割財産には小規模宅地等の特例の適用がないとのことなので困っています。どうすれば良いでしょうか?

 

お尋ねの不都合は、小規模宅地等の特例不適用に止まらず、配偶者の相続税額軽減規定の不適用にも関ってきます。
今後の対応ですが、3年10カ月以内に遺産分割協議書を作成して相続税の期限後申告を行うことが考えられます。この場合は2つの優遇措置が適用される可能性が大です。尤もスケジュール的に極めてタイトであることに加え、建物及び宅地の共有持分者である義母さんと義妹さんが共有持分者数の増加に難色を示して居られる由にて、強行すると親族関係がギクシャクする惧れがあります。
他の選択肢は、未分割の状態で確定申告を行い、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して税務署長の承認を求めることです。この後で時間を掛けて他の共有持分者と協議し、纏まれば分割を実行して税額還付のために更正の請求を行います。承認の可否は此れまでの無申告の経緯や未分割の理由次第なので、断言できませんが可能性はあると思います。申告書や承認申請書を提出せずに宥恕規定が適用されることは有りませんので、優遇措置を受ける為には一連の手続きが不可欠です

1.事実関係
物件は東京郊外にある400坪程の広い宅地で、義母と義妹の居宅・被相続人家族の居宅・賃貸マンション1棟の敷地の用に供されている。被相続人の父から相続により取得したもので、母が5分の2・被相続人が5分の2・義妹が5分の1の割合で全体を共有している。
此れまで無申告であった理由や、義母の顧問税理士からどの様な説明・助言があったか、正確な処は分からない。

2.関連する税法規定の要点
相続財産が未分割の場合の優遇措置の不適用(相続税法第19条の2②、相続税法施行令第4条の2②/租税特別措置法第69条の4④、措置法施行令第40条の2⑯)
 申告書の提出期限までに分割されていない財産(特例対象宅地等)については、配偶者に対する相続税額の軽減の規定/小規模宅地等の計算の特例の規定を適用しない。但し分割されていない財産が申告期限から3年以内(已むを得ない事情がある場合で、政令で定めるところに拠り税務署長の承認を受けたときは、分割が出来ることとなった日の翌日から4月以内)に分割された場合はこの限りでない。
適用を受けるための申告書への記載及び書類の添付(相続税法第19条の2③/租税特別措置法第69条の4⑦)
 規定の適用を受けるには、期限内申告書(これ等の申告書に係る期限後申告書及び修正申告書を含む)に、適用を受ける旨及び計算に関する明細書その他財務省令で定める書類の添付をしなければならない。
宥恕規定(相続税法第19条の2④/租税特別措置法第69条の4⑦)
 税務署長は、相続税の申告書の提出がなかった場合又は適用を受ける旨の記載や財務省令で定める書類の添付がない申告書の提出があった場合でも、その提出又は記載若しくは添付がなかったことに付き已むを得ない事情があると認めるときは、当該記載をした書類の提出及び財務省令で定める書類の摘出があった場合に限り、規定を適用することが出来る。
財務諸省令で定める書類への記載事項等(財務省令第1条の6③)
 適用を受けるために申告書に添付すべき書類は次の通り。
 ⅰ)遺言書・遺産分割協議書・その他財産の取得状況を証する書類
 ⅱ)申告書提出時に未分割の財産につき、その後分割された場合に規定の適用を受けようとするときは、その旨・分割されていない事情・分割の見込みを記載した書類

3.本事例に於ける判断
相続税法に従い正しく処理されていたならば、期限内申告書の添付書類として「申告期限後3年以内の分割見込書」が提出されていた筈であった。これ等を提出せず3年以内に分割が行われた場合だが、分割見込書の不提出には上記2②の宥恕規定が適用される余地が有るので、適用があるものとして相続税額を計算した期限後申告書を提出すれば認められる可能性がある。
3年以内に分割できそうもない場合は、未分割財産に就き規定を適用せずに相続税額を計算した期限後申告書を3年経過前に提出し、併せて「未分割であることにつき已むを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出して税務署長の判断を仰ぐしかない。承認申請書(財務省令で定める書類)の不提出には宥恕規定が適用されないので、適用の可能性を追求するには承認申請書の提出が不可欠となる。
なお承認申請書の提出可能期間は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までと極めて短期間なので留意する必要がある。
これを過ぎても何らアクションを取らない場合は、適用余地が皆無と考える。

(お断り)
 本記事については一部筆者私見が含まれています。
 
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