■ 船の旅(前編)

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大型クルーズ船での旅は、一握りの富裕層の贅沢で庶民とは無縁のものと思い込んでいましたが、どうやらそうでもなさそうです。無論相応のお金は必要ですが、それで享受できるサービスを考えれば充分納得できます。大型船舶の導入や高稼働率に依り限界利益を引下げ、一方で個人の費用負担能力と非日常世界(夢)の提供とを絶妙にバランスさせた料金プランが広範に認知されつつあります。団塊世代と呼ばれる比較的ゆとりのある世帯を対象に、急激に市場を拡大しそうです。

11.5万トンの巨大な船内は将に人種の坩堝(るつぼ)です。横浜発着の東南アジアクルーズなので、2千7百人の乗客の約半数が日本人、その他が30を超える国からの外国人です。英国船籍のためスタッフ1千1百人の多くが外国人なので、全乗員の過半が異邦人と言うことになります。船内公用語は英語ですから、寄港地入国手続き等の重要アナウンスにはダンボ耳をそば立てる必要があります。ところがMcDonald’s(マツクドウナーズ)をローマ字表記でマクドナルドと発音する団塊世代は、粗々の情報しか聞き取れず四苦八苦することになります。
TVニュースは衛星放送しか映りません。頼みの綱のNHK衛星放送も与那国島を過ぎた辺りで電波が途絶え、後はBBCやCBSNが唯一の情報源になります。そもそも日本に関する記事が殆んどなく、見たのは天皇即位儀式とラグビーワールドカップの触り部分のみ。対照的に中国に関する報道が多く、我が国の地盤沈下を今更ながら思い知らされた次第。
ネット環境は飛行機内と同じ状況です。船内Wi‐Fiが利用出来ますが、料金がUS$15~25/dayと高く、到底ネットサーフィンをする気にはなれません。

船旅の最大の楽しみは食事です。毎日レストランで本格的dinnerが食べられますが、利用したのは3回のみ。ドレスコードや堅苦しいテーブルマナーがあるため、早々にgive‐upして専らビュッフェ愛好者となりました。要は庶民の口には、肉厚フィレステーキより薄い脂身のローストビーフが合っていると言うことです。洋食主体の品揃えですが、飽きさせない様に毎日メニューが変更されます。今回は日本人客が多いと言うことで、特別に寿司コーナーやラーメンコーナーが誂えられました。但し食中毒が発生しない様に生魚は使用されません。散らし寿司の具としては過熱済み食材が用意されます。船内火災予防の為、強い火力を必要とする中華料理も殆んど提供されません。食べ方ですが、周囲に不快感を与えない限りは自由です。お皿を手に持って食べるのは無作法とされているので控えました。外国の方は熱いラーメンを啜らず、音を立てずにフォークで召し上がるため如何にも難儀そうです。白米が常備されており、ビーフカツ載せカレーライスや牛飯擬き丼などの珍品料理の創作が楽しめます。漬物も用意されていますが、納豆は匂いがきついため皆さん外国の方に遠慮して余り召し上がりません。小職のヒット作はコンソメをかけた猫ご飯。周りに気付かれぬ様にリゾットを食べている風を装い、梅干しと沢庵をポリポリ。実に美味です。

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