■ 熱海からイザ鎌倉へ

Print Friendly, PDF & Email

これから長丁場の確定申告業務が始まる1月中旬、お客様から温泉にでも浸かって来たらと高級リゾートの利用券を頂戴した。愛車を駆ること1時間余、小田原漁港に到着する。目的は「めし家やまや」の海鮮どど丼を食することにある。どど丼とは如何にも珍妙な名前だが、正体はその日獲れた地魚の酢飯丼である。命名の由来は知らない。仲卸直営の店とてネタは確かだ。特筆すべきは板長で、妙齢の女性がずっと務めている。料理が出来上がった処で10数種のネタを丁寧に説明して呉れる。10席程のカウンターだけの小さな店だが客の行列が途絶えることのない名店である。
小田原の後は、湯河原駅の近くに在る珈琲ウエスト本店に立ち寄るのが定番だ。頼むのは決まって渋皮モンブランとレモンティー。ゆっくりと時間を掛け老舗のスイーツを愉しむ。昭和のレトロな雰囲気が漂う広い店内は、何時も清潔に保たれている。我々世代の客層に人気があるらしく、安くはないのに何時来ても繁盛している。スタバでは物足りない年配のリピーターが多い様だ。
彼のリゾート施設は眼下に熱海湾を見渡す緩やかな傾斜地に建つ。熱海駅近辺は土地が狭くMOA美術館への車の往復には何時も辟易するが、少し離れた大型施設が建つこのエリアはその様なことがない。斜面を巧く活かしたレイアウトだが、先達ての伊豆山土石流災害のこともあり、手放しで安心と言う訳には行かない様だ。露天風呂から初島が真近に望める。遥か沖合には伊豆大島がある。3年前あの辺りを通って東南アジアへのクルーズ船の旅に出た。不幸にして下船後1ケ月程で忌まわしいコロナ騒ぎが起きた。思い出が詰まったD.Princessの船内が、連日悪の巣窟の如く放映されるのは見るに堪えなかった。
帰宅当日は小雨でこの冬一番の寒さになった。大河ドラマの影響で鎌倉から暫く遠ざかっていたが、平日とて愛車での移動には何らの不都合もなかろうと、久方振りに建長寺を訪れた。広大な庭園で知られる禅寺だが,足元から深々と忍び寄る寒さに耐えきれず、山門辺りの僧堂の拝観に止めた。然しながらそこで思いがけない発見をした。山門から境内奥に向かって右手に茅葺屋根の鐘楼が建つ。鎌倉時代に鋳造された梵鐘は、国宝に指定されている。そこに夏目漱石が梵鐘を詠んだ句碑が遺されている。”鐘付けば 銀杏散るなり 建長寺” 。直ぐに正岡子規の”柿喰えば 鐘が鳴るなり 法隆寺”を想起させる。漱石が親友であった子規の句をパクったかと思えばそうではない。逆に漱石が詠んだ句を参考に、後で子規が発句したらしい。子規と言うご仁は、伝承通り中々に可愛げが有った様だ。

関連記事: