高額給与所得者のご夫婦から節税目的の不動産賃貸経営に関するご相談

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大手法律事務所に勤めています。私と夫を合わせた年収は3千万円程です。資産運用も兼ねて、(インサイダー情報を保持している関係で株式等の取引が一切禁じられている事もあり)不動産投資に興味を持っています。節税目的で投資用不動産を所有している同僚が一定数おり、実際の処どの程度の節税効果があるのかご教示頂けませんでしょうか。(年収が幾等で幾等の物件であれば節税効果があると言った数字をご教示頂ければ幸いです。)
また両親が(高額なものではありません)5物件ほど不動産を所有しており、うち3物件については賃貸しています。相続税対策として何か出来ることがあれば(例えば会社を立ち上げて法人所有にする等のメリットがあるか)併せてご教示頂き度く宜しくお願い申し上げます。

 

残念ながら幣事務所のお客様の実情を見る限り、所謂サラリーマン大家の節税を目的とする不動産賃貸経営は成り立たなくなっています。勿論ビジネスとしての不動産投資や遊休土地の活用は別物です。最大の原因は平成3年の税制改正で、不動産所得が赤字になった場合の土地取得負債利子と他所得との損益通算が認められなくなった為です。この他にも令和2年の富裕層向け海外中古不動産の減価償却費を利用した節税スキームの規制など、当局による取締りが強化されつつあります。
ご両親所有物件の相続税対策については、以下の解説部分で詳述します。

節税目的での不動産投資を規制する為の措置がどの様なものかをご理解頂くために、弊事務所が扱う2つの事例をご紹介します。
1.目黒区内新築アパートの賃貸事例
①物件概要
 建物建設費(3部屋 94.77㎡)   31,482,000円
 土地価額(82.11㎡)        64,515,000
②賃貸損益
 賃貸料(グロス利回り4%pa)   3,798,000
 アパートローン金利(変動1.5%) 1,439,900  *うち土地取得に係るのは967,600
 減価償却費(22年定額法)    1,431,000
 固定資産税等            182,900
 火災保険料              32,800
 不動産会社委託管理費        284,200
 雑費                100,000
③不動産所得      
差引で407,200円の黒字になります。ネット利回りは0.424%ですから安全型金融商品よりは良いかも知れません。ところが此れは新築直後の満室ベースでの話で、空室リスクが反映されていません。当該物件も昨年の空室率は約2割でしたので、賃貸料は759,600円の減収になります。この結果不動産所得は▲352,400円の赤字になりますが、給与所得や事業所得の黒字との損益通算は認められません。352,400<土地取得負債利子967,600なので後者の一部615,300円だけが損益通算可能です。
赤字要因は空室リスクだけではありません。金利上昇もリスクになります。事例は変動金利1.5%で計算していますが、固定金利であれば3.1%が相場です。これで再計算すると、土地取得負債利子が1,999,900円、不動産所得が▲151,900円になります。従って損益通算が可能な土地取得負債利子は前者の一部1,848,000のみです。これでサラリーマン大家の節税目的のアパート経営は殆ど効果のないことがお分かり頂けると思います
実際にはこの事案の大家さんは、親から相続した遊休地にアパートを建設したもので、既にアパートローンも完済して居り、黒字経営で余裕を持って賃貸収入を享受して居られます。

2.ハワイ高級リゾート物件の賃貸事例
年収25百万円を超える会社役員の方が、節税目的でハワイの高級戸建て物件を購入し賃貸されているものです。ハワイ州の固定資産課税通知を基に算出した建物取得費は70百万円で、これを日本の簡便法に依る中古資産の耐用年数4年で減価償却を行っています。因みに米国の法定耐用年数は22.5年です。
①物件概要
 建物購入費・リフォーム工事費  70,347,000円 *築25年の木造美築豪邸
 土地価額            79,899,100
②賃貸損益
 賃貸料             3,436,400
 ローン金利(変動1.975%) 2,244,600  *うち土地取得に係るのは1,151,000
 減価償却費(4年定額法)    17,989,900
 租税公課             989,300
 火災保険料            114,800
 不動産会社管理委託費      1,149,300
 その他経費            858,000
③不動産所得
差引賃貸損益は19,909,500円の赤字になります。土地取得負債利子1,151,000は損益通算が出来ませんので不動産所得は18,758,500円の赤字になります。当年度の給与所得金額は23,843,300円、所得控除額合計が2,981,100でした、不動産所得の赤字と通算した後の課税所得金額は殆どゼロになります。この結果、源泉徴収所得税額5,743千円の略全額が還付され、住民税所得割額も1,875千円が軽減されました。
平成29年分以降、同様の申告を行ってきましたので累計の節税額は相当規模になります
④令和2年度税制改正への対応
富裕層向け節税スキームの規制は、令和3年以降の国外中古建物から生じる不動産所得について適用されますので、既にこのスキームを実行中の方は何らかの対応が必要になります。この方も令和2年末で13,190,000の建物未償却残高があるため、Exit Planを協議中です。

3.個人の不動産賃貸事業の法人化の得失

ご両親が営む小規模不動産賃貸事業の法人化については、所得税対策と相続税対策の両面で得失を考える必要があります。
①所得税対策や社会保険料対策としての得失
法人化に依り以下のメリットが得られます。
イ.個人事業主に適用される超過累進税率よりも中小法人に適用される優遇税率の方が低い
ロ.親族等への給与支給により、所得の分散効果と給与所得控除の適用が受けられる                
ハ.社会保険料の算定基礎額が総所得金額から標準報酬月額に変わるので調整が可能になる
ニ.第三号被保険者となる配偶者や、子など被扶養者の保険料負担がなくなる
逆に以下のデメリットがあります。
ホ.会社法の順守や青色申告の為の会計処理に時間とコストが掛る
へ.赤字の場合でも法人住民税均等割の支払が必要になる
結論としては、小規模零細事業であれば態々法人化する必要はなかろうと思います。
②相続税対策としての得失
資産保有形態での法人設立は、個人から法人への不動産移管に伴い譲渡所得が発生する為お薦めできません。賃貸不動産は個人所有のまま残し、法人はサブリース会社として運営するのが一般的ですが、この場合は相続財産評価に於ける貸家・貸家建付地の評価減が受けられます。また貸付事業用の小規模宅地等の特例適用も可能です。不動産管理会社の場合、相続税対策としての法人化には特段のメリットもデメリットもありません。詳細は弊別稿「個人の不動産賃貸事業の法人化についてのご相談: 法人化によるメリット・デメリット」をご参照下さい。
 
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