相続税対策には自ずと節度が必要ではないか?-全国紙記事への疑問-

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新聞や経済紙が、過熱気味とも言えるほど相続税対策記事で賑わっています。勿論、有用な記事が多いのですが、中には読者に無用の誤解を与えるのではと懸念される記事も少なくありません。先日某全国紙に、”にっぽんの負担”と題するシリーズ物で、以下の様な記事が掲載されました。これを読んで首を捻った税務関連者は、少なくないと思います。どこに問題が有るのでしょうか?

記事の内容ですが、”手許に6億円の余剰キャッシュがある富裕層が、同族会社である株式会社を設立してその金と銀行借入4億円とで数戸のタワーマンションを購入し、その株式を長男に生前贈与すれば1円も贈与税を払うことなく6億円の財産移転が出来る”と言うものです。ご丁寧に、”まるで錬金術。親も子も救われました”との父親コメントも紹介されています。記事の真意が、過度の相続税対策を戒めているのか、こんな巧い手が有ると読者に伝播しているのか、良く分かりませんが。

1.節税策の狙い

簡単な理屈です。贈与するのは非上場株式ですので、課税の基となる評価額は、会社の資産と負債の差額(=純資産価額)を相続税評価額に置き直して計算します。この処の不動産価額の高騰により、都心部のタワーマンションですと、相続税評価額は時価より遥かに低くなります。賃貸に回せば、更に評価額が下ります。事例では、10億円の取得価額に対し、評価額は僅かに2億円とのことでした。これに4億円の借入が有りますから、純資産評価額はマイナス2億円です。価値のない株式を贈与しても、課税は生じないとのロジックです。

2.どこが不都合なのか?

二つあります。先ず、①会社が不動産を(最後に)取得してから最低3年経過しないと、長男に株式を贈与できないこと、次に ②個人資産である現預金6億円をどの様に会社に移すかです。何れもシリアスな問題の筈ですが、記事の中に説明は一切ありません。

①節税目的のためには、最低3年間株式の贈与が実行出来ないこと
借金をして不動産を買うと言う古典的な節税手法は、90年代の不動産バブルの折に頻りに利用されました。然しながら、その後のバブル崩壊でどうなったか、皆さんご承知の通りです。課税当局がこの種の税逃れを手を拱いて見て居る筈がなく、次の様な対策を講じています。そうすると、この間の不動産市況変動リスクを考える必要があります。巷間、2020年以降の不動産市況は不透明と言われています。
 「財産評価基本通達第185項:1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)は、評価会社が課税時期3年以内に取得した土地等や家屋等を課税時期における通常の取引価額により評価した金額とする」

②新会社の払込資本金等が巨額になること 
個人資産の6億円を、新会社に貸付たのでは節税になりません。当然資本として、6億円を拠出する必要があります(これ以外の方法を思いつきません)。資本金が5億円以上だと、CPA監査が必要になります。払込資本の50%まで資本剰余金とすることが出来ますので、資本金は3億円に抑えるとしても、節税目的の会社にしては巨額です。資本金が1億円を超えると、各種の優遇措置不適用・法人税率・外形標準課税その他のデメリットが生じます。また所轄税務署管轄ではなく国税局管轄になりますので、当然当局の目は厳しくなります。そもそも贈与税対策としての、形式的な法人化が否認される可能性も、皆無とは言えません

今回の関西の事例は、顧問税理士の発案に拠るものだそうですが、ハッキリ言ってこの種の提案をするのは躊躇します

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