令和4年度以降の税制改正で暦年贈与の110万円非課税枠を使った相続税対策が出来なくなる可能性があります

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贈与税の課税方法には、暦年課税と相続時精算課税の2種類があり何れを選択するかは納税者の任意です。税理士としては暦年課税をお客様に推奨しています。理由は暦年課税で有れば年110万円の非課税枠が使え、加えて相続開始前3年以内の贈与を除き相続財産の課税対象に加算されないためです。これに対し相続時精算課税については贈与時期に拘わらず全て相続財産に加算され、且つ非課税措置がありません。誤解されている方が多い様ですが、25百万円の特別控除額と言うのは、贈与時に贈与税を科さない累計限度額であって、単なる課税の繰延措置に過ぎず非課税措置ではありません。これが小職が暦年課税をお薦めする理由ですが、実際の申告実績でも相続時精算課税を選択する納税者は全体の1割にも満たないと言われています。ところがこの暦年課税が廃止される可能性が出てきました。

令和3年度の税制改正大綱には、「資産移転の時期の選択に中立的な相続税・贈与税の検討」と題して相続税と贈与税の一体課税のための制度見直しについて言及されています。理由が縷々書いてありますが、抽象的な表現のため小職には何故改正が必要なのかが良く理解できません。諸外国(アメリカ・ドイツ・フランス等を指すと思われる)では、一定期間の贈与や相続を累積して課税することに拠り、資産移転時期に拘わらず税負担が一定となり、同時に意図的な税負担回避が防止される仕組みが講じられています。これを参考に相続税と贈与税を一体的に課税するため、相続時課税制度と暦年課税制度のあり方を見直し、資産移転時期の選択に中立的な税制の構築を目指すと書かれています。
確かに我国の贈与税は相続税とは別体系で、原則として単年度課税で完結し、また各年毎に非課税枠が設けられているため、これを利用した生前贈与が行われ、貧富格差を助長する不平等制度との批判があるのも確かです。

では具体的にどの様な改正が行われるのでしょうか。改正大綱に書かれた問題意識や方向性から推測するに、①暦年課税制度を廃止し相続時精算課税制度に一本化するか、②或いは暦年課税制度を存置して相続前3年以内の贈与財産の相続財産への加算(相法第19条)規定を10年乃至15年に延長することが考えられます。現行の相続時精課税制度には、贈与者や受贈者に年齢制限があり、また推定相続人への贈与以外に適用が認められていないため見直しが必要です。論理の一貫性からすれば、暦年課税制度の非課税限度額は廃止されるでしょう。
改正が実施された場合、納税者にどの様な影響があるでしょうか。先ず生前贈与を使った相続税対策が意味を成さなくなります。実務面では、一定期間(10乃至15年、或いは無期限)の贈与額の累計把握が煩瑣になります。僅少の贈与まで管理対象にしたのでは実務が廻りませんので、少額の贈与は累積対象から除外するなど何某かの非課税措置が設けられる可能性があります。
改正時期ですが、種々議論がありますので令和5年以降にずれ込む可能性が高いと思われます。従来同様の生前贈与を使った相続税対策をお考えの方は、これより前に実行することをお薦めします。

税制改正には与党の意向が強く反映されます。参考までに、甘利明自民党税調会長の本事案に関するコメントを纏めてみました。
①相続税と贈与税(暦年課税)の最高税率は共に55%だが、累進税率の傾斜度が異なる為これを巧く使い税負担を軽減する向きが多いが、税制が一部の資産家に有利に働く状況は好ましくない。
②海外では相続と贈与を累積して一体的に課税する仕組みがあり、、これで資産移転のタイミングに拠る税負担の中立性が確保できる。さすれば我が国の税制も時間を掛けて国際標準に揃える必要があると考えている。
③税制変更により過去の暦年贈与に遡及して影響を及ぼすことはなく、改正以降の対応になる。いきなり変わるのではなく時間を掛けて議論してゆきたい。

 
*本文中には一部筆者の私見が含まれています。
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