節度がない不合理な相続税対策は否認リスクがあります - 金融機関の話を鵜呑みにしてはいけません

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相続直前に銀行から多額の借入をし、賃貸用不動産を取得して相続税負担を免れた事案につき、令和3年4月27日に東京高裁は、財産評価基本通達第6項(この通達の定めに拠り難い場合の評価)に基づく更正処分を適法とする判決を下しました。同様の更正処分が相次いでいます。安易な租税回避プランを持ち込んだ金融機関と提携税理士事務所、これに乗じた納税者への警鐘と言えます。

1.事実関係
不動産賃貸業を営む被相続人甲は、予て不動産購入による相続税圧縮を銀行と検討していたが、肺がんの罹患を機に銀行紹介で15億円(土地8.8億円、建物6.2億円)の単身者用高級賃貸マンションを取得した。資金は同額の銀行借入金で賄った。この2か月後に被相続人甲が89才で死亡し、相続人は賃貸不動産の評価額を財産評価通達に基づき4億7千万円として、借入金15億円を債務控除のうえ相続税の申告を行った。これに拠る物件評価額の圧縮効果は、取得価額の3分の2相当の9億円と銀行側から説明を受けていた。これに対し所轄税務署長は評価通達第6項を適用し、本件不動産の評価額は10億4千万円(鑑定評価額)であるとして相続税の更正処分を行った。鑑定評価は原価法及び収益還元法により算定されている。
2.国の更正処分の内容
税務署は財産評価通達第6項(この通達の定めに拠り難い場合の評価)を適用し、評価通達に拠り評価することが著しく不適当と認められる財産として、国税庁長官指示で不動産鑑定評価を実施し、土地の適正評価額は8億3千万円、建物は2億1千万円であるとして更正処分を行った。国税不服審判所もこれを支持している。
3.東京高裁判決の要旨
①評価通達に定める以外の評価方法で相続財産の評価を行うことは原則許されない。然しこれでは適正な時価を算定することが出来ないなど、租税負担の公平を著しく害することが明らかな「特段の事情」がある場合は、評価通達以外の合理的な方法で評価することが認められる。
②本件では通達評価額と通達第6項に基づく鑑定評価額の間に著しい乖離が有り、この結果課税額に著しい差異が生じている。これ自体が特段の事情に該当すると言える。
③事実経緯から、本件は相続税の圧縮効果を期待した不動産の購入と認められる。銀行の内部資料にも相続税対策との記載が有り、被相続人の健康状態から15億円の借入と不動産購入の実行を急いだことが窺える。
④本件賃貸不動産の評価は第6項に基づく鑑定評価額が適正であり、国の行った更正処分は適法である。
4.相続税対策が許容されるメルクマールは何か?
相続税の申告に当っては相続財産を評価通達に基づき評価します。ところが通達の第6項は真逆の規定なので、国税当局に明確な基準なく伝家の宝刀として使われると納税者は堪ったものではありません。
何処までの相続税対策であれば認められるのでしょうか?筆者が曾て企業の税務担当者であった頃、法人税調査で首席調査官から「松浦さん、税務の基本は常識ですよ」と教えられたことがあります。これがメルクマールではないでしょうか。多額の相続財産が有りながら、姑息な手段を弄して税負担を免れると言うのはどう考えても理不尽な話です。税理士は悪戯に顧客に迎合するのではなく、適格な判断を行う為の良識を備えることが必要です。
もう一点、金融機関の甘言を鵜呑みにしてはなりません。投資や税務のリスクは顧客に押し付け、殊更に節税メリットを強調して貸付実績を増やす営業手法は、如何にも手前勝手で狡猾です。この種の節税提案については、利害関係がない税理士等のセカンドオピニオン取付をお薦めします。

 
*事実関係については、税務研究会発行の税務通信(NO.3634,3657及び3658)の記事を参照しています。
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