負の遺産となる空き家や農地等の相続放棄に関する法制度の見直し

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登記簿を調べても所有者が判明しない、或いは判明しても連絡が付かない「所有者不明土地」が増加の一途を辿っており、九州に匹敵する面積に達しています。住環境の悪化を招き公共事業等の阻害要因となる為、平成30年に”所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法”が制定されました。所有者不明土地の取得や公益利用を可能にする為の措置として、①地域福利増進事業のための利用権設定と②収用手続き円滑化のための土地収用法の特例措置が講じられたほか、③国叉は地方公共団体による財産管理人選任請求のための民法の特例措置及び④土地所有者の探索及び職権による相続登記のための不動産登記法の特例措置が講じられています。この検討過程で法務省委嘱の登記制度研究会により、土地所有権放棄の是非が問題提起されました。現行制度下では、固定資産税や管理費用忌避のための土地所有権放棄は認められていません。代替案として相続放棄(⇒放棄された不動産や農地等の管理を国に肩代わりさせる)を検討する向きもありますが、今回の特別措置法でどの様な影響を受けるでしょうか?

1.現行制度下での負の遺産対策
①土地所有権の放棄の可否
民法には土地所有権の放棄に関する規定がありません。過去の判例や法務省の見解によれば、土地所有権放棄は須らく否認されるものではないが、他者の利益を害さない条件下でのみ認められると言うのが通説です。土地所有権の放棄は登記の抹消をしなければ第三者に対抗できません。危険土地の改修工事費や固定資産税の国への転嫁を目的とする登記引取り請求は、尽く退けられています。
②相続放棄をした場合の問題点
相続人不存在の場合、相続財産は最終的に国庫に帰属(民法第959条)します。相続人の全員が放棄した場合も同様です。相続放棄をするとその他の財産の承継権も失いますので、資産価値のあるものは予め生前贈与をします。贈与税負担後の手取り額と負の財産価値との兼合いで得失を判断すれば良い訳です。ところが実際はそう簡単に行きません。
相続人がいない場合は、利害関係者等の請求により家庭裁判所が相続財産管理人を選任しますが、これには数十万円~1百万円の予納金が必要です。そうすると誰も選任請求をしないので、相続財産が国庫に帰属することはありません。この場合の維持管理責任は相続放棄者が負うことになるため(民法第940条①)、結局の処は固定資産税以外の費用負担から逃れることが出来ません。
③法人への名目的な金額での譲渡や寄付
行政が負の遺産に係る負担を強制的に相続人に押しつけると、”Going Concern”を前提としない法人に名目的な価格で売却してこれから逃れる(後で法人は畳む)と言った新手のスキームが出て来ることが考えられます。合法的且つビジネスとしても充分に成り立ちそうです。人口減少を見据えて、土地所有に関する法制度を根本的に見直す時期に来ているのではないでしょうか。

2.特別措置法の創設による遺産対策への影響
負の遺産の相続放棄をした相続人が、多額の予納金を支払ってまで財産管理人の選任請求をすることは考えられません。そうすると相続財産法人は管理者がいない状態が続く(管理不全状態の継続)ことになります。不法投棄や雑草繁茂等により周辺への悪影響が発生する場合は、国または地方公共団体が財産管理人の選任請求が出来ると言うのが民法特例措置の中味です。この場合に財産管理人報酬その他の費用負担はどうなるでしょうか。現行規定では、相続財産法人若しくは予納金から支弁することとされています。それでは相続放棄をして国や地方公共団体が動くのを待つのが得策と言う妙な話になりますが、詳細は未だ良く分かりません。
何れにせよ人口高齢化と都市部への人口集中により、相続放棄地の管理は今後益々重要な政策課題になります。無主不動産の帰属先を国から地方公共団体等へ拡大するなど、地域の個別事情を把握した公的機関やNPOを活用した有効性のある施策の導入が望まれます。

 
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